アニタ・ムイ

後輩思いの梅艶芳

 −ちょっとプロフィール−
 こんなこと書かなくてもいいですよね、ご存知アニタ・ムイ姐さんです。


 14年前の夏休み、かっこよくないひとりの少年が新人歌手コンクールに応募しました。ラッキーな彼はなんと4000人もの中から選ばれ、決勝戦まで残ったのでした。
 少年はそれはそれは驚きました。テレビに出たことなんてこれまでなかったし、ましてやあんなに大きなコンクールなんて。ものすごいプレッシャーです。決勝戦の前、お母さんに3000ドルを借りて、舞台衣装になりそうな服を選びに行き、白いジャケットに白いシャツ、黒パンツを買いました。
 その頃、謝賢(注:ニコラス・ツェのパパ)と陳百強(注:当時超人気だった歌手)がいつも胸元にダイヤをつけていたのを真似しようと少年は思いつきました。決勝進出者の呉國敬を連れて旺角のショッピングセンターへ行き、大きなにせダイヤを買いました。それは買った服とぴったり合ってたので、観客が自分の顔から視線をそらせてこれに目がいってくれるといいなぁと思いました。
 決勝のオープニングが始まる前、ひとりの大スターが決勝進出者の顔ぶれをを見にやってきました。そのスターは少年の前で足を止めると、眉をひそめてこう言いました。
「あなた、ちょっとその石をはずして!」
 そしてどこから取ってきたのか、黒のボウタイをつけさせたのでした。
 大スターのボウタイを胸にした少年はなんとその夜準優勝に輝いたのでした。
 その少年の名は蘇永康、大スターは梅艶芳と言います。

 アニタがみんなに慕われる所以がわかるようなエピソードです。それにしてもどこかしら運命的なお話だと思いません?

 アニタファミリーの一員とまではいかないけれど、アニタの影響はとても大きいという康仔。アニタが教えてくれた”初めて”がたくさんあるんだそうです。たとえばディスコや日本料理。康仔がデビューした頃は若手をいろんなところに連れていってくれたアニタだったのですが・・・。

・・・だんだん彼女と遊ぶ回数が少なくなっていった。僕自身の生活環境ができていくにつれて、彼女と一緒にいることがプレッシャーになってきたからだ。
 彼女のそばにいる人はいつも同じじゃない。最初は僕たちのような連中だったのが、やがてジャッキー・チェンやレイモンド・チョウになった。ジャッキー・チェンはウィリーさん(注:ジャッキーのマネージャー)とも一緒に遊ぶんだけど、レイモンド・チョウやレナード・ホー(注:どちらもゴールデン・ハーベスト社のおえらいさん)なんて人も一緒だったらもう僕たちなんてお呼びじゃない。

・・・そりゃそうなっちゃいますよねぇ。
 やがて、アニタの黒社会がらみのスキャンダルが世間をにぎわせることになります。

それ以来、彼女の周りにいた人がだんだん減っていった。彼女についていく人がいなくなっただけでなく、彼女の心も変わっていった。
 グラスホッパーから聞いたところだと、アニタは外へ遊びにいくのが嫌いになったんだそうだ。彼女の仕事においてもきっとなんらかの転機があったんだろう。
星座で分析するならアニタは天秤座だから一人ぼっちが嫌いだ。でもたくさんの人に囲まれていても本当に楽しいとは言えないことに後で気がついたのかもしれない。だから仏教に教えを乞い、心の平和を求めようとし、以前のような生活を求めなくなったのかもしれない。
 彼女が本当に求めてるのはたった一人、自分を守ってくれる男性ではないかと思う。

 アニタのコンサートにゲスト出演したときも、以前と比べて勢いがないと感じたという康仔。でも安仔のコンサートのときに、毎日滋養のある食べ物を持ってやってきて、体調を完全にくずしていた安仔に食べさせてから舞台に上がらせてたというエピソードから、以前の後輩思いのアニタが戻ってきたとも感じているそうです。

 最後にアニタから学ぶことはとても多いという康仔ですが・・・

いちばん肝に銘じてる言葉は十数年前に彼女が僕に言った一言、
「康仔、どんなことがあっても記者には本音を言っちゃだめよ!」

  

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